地獄でなぜ悪い

チラシの裏みたいなもの

【仕事】おじさん。

———おじさんが死んだ。

 

おじさんとは、職場に度々現れる不思議な年配男性のことだ。

 

 

 

 

 

容姿は決して綺麗とはいえない衣服に、ボロボロのサイズの合わないスニーカーを履いて、2㎞弱はある道のりを荷台を押してやってくる。この辺りのお店では知らない人はいないくらい、有名なおじさんだ。商売でもやっていなければ、一見ヤバそうな外見なので関わる人はそう多くはないだろう。わたしたちも、お客さんの一人として接している。

 

おじさんはわたしの職場に顔を出し、みんなに挨拶して、またさらに2㎞以上もある道のりを歩き、お友達のところへ遊びに行くらしい。詳しくは知らない。

 

おじさんは、昔ラーメン屋さんの店主をやっていたらしい。なのに、わたしの職場で即席ラーメンを箱買いする。「年金が入ったら払いに来るから。」そう言ってツケでラーメンを買っては、年金の支給日に必ず払いに来る。見た目はあんな感じだけれど、律儀で真面目だ。

 

わたしの仕事中、外で出くわすこともある。何歳か定かではないが、結構年齢がいっていたと思う。でも、目はよかったのかな。わたしを見つけると遠くからでも手を振ってくれる。なので、わたしも手を振り返した。

 

そんな、おじさんが、死んだ。

 

正確には、死んだことを聞かされた。

 

下手すれば、毎日のように見かけたおじさんを、この夏、一度も見かけていなかった。嫌な予感はしていた。職場のみんなと、暑い夏だし、体調崩して入院でもしているんだろうか、と話していた。誰もが頭によぎっていたけど、誰も口にはしなかった。

 

おじさんを知っている人に、たまたま何の気なしにおじさんの話をしたら、6月に自宅で亡くなっているところを発見された、と聞かされた。熱中症が原因だったらしい。

 

はっきりとした日付は覚えていないけれど、初夏の暑い日、多分6月の暑くなり始めた頃、おじさんを見た。いつものように職場に顔を出してくれたけど、あまりに顔色が悪く、目が虚ろだったので少し涼んで行ったら?と室内で休ませてあげて、同僚が飲み物をあげていた。「ありがとう。」元気のない声で返事して、飲み物を飲んで少し休んだらすぐにまた荷台を押して歩きだして行ってしまった。それが、最後のおじさんの姿だった。

 

もしかしたら、あの時もう既に体調が悪く、それが悪化して亡くなったのかもしれない。あの時、救急車でも呼んであげればよかったのか、、、それが直接の原因じゃなかったかもしれないけれど、自分にしてあげられることがもっとあったのではないかと、悔やんでしまった。

 

どこに住んでいるかもはっきり分からないし、名前だってよく知らない。家族だっているのかどうか分からない。でも、わたしの知っているおじさんという人は、ついこの間で生きていたし、生きていると思っていた。おじさんはどんな思いで、1人で亡くなったんだろう?そう考えたら涙が出た。

 

おじさんが前に言っていた。

「歩くのがあまり上手ではないから、長い距離歩いていると転んでしまう時がある。でも、そうすると道行く人が助けてくれる。この間は中学生の女の子が、おじさん大丈夫って手を引っ張って起こしてくれて、怪我したところを拭いてくれた。優しい子もいるもんだよなぁ。生きてりゃいいこともあるもんだ。」

今、思い出しては胸にグッとくる。

 

心から哀悼の意を表します。